ミハスの落日
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ミステリ・サスペンス
重厚な長編が多い貫井さんの新作は、小説新潮を中心に掲載された短編集です。
読んでみて意外だったことが2つ。
1.海外を舞台とした短編集だということはわかっていたけれど、登場人物も現地の人。当然といえば当然だけれど、日本人が中心だと思い込んでいました。
2.実は既読だった作品があったこと。普段文芸誌はパラパラめくる程度で小説は読みません。だからすべて未読だと思っていたのですが。ところが表題作は・・・
ということで、読んでみるとなかなかバラエティに富んだ作品集でした。
●「ミハスの落日」
既読だった表題作は『
大密室』に収録。読んでいたわけですが、真相にたどり着くあたりまですっかり忘れていました。逆に言えば、唾棄すべき真相が生々しく忘れられない作品。ただし密室トリックはイマイチか。
●「ストックホルムの埋み火」
いかにもといった風のサスペンス、しかしとんでもないところから読者の世界を反転させてくれます。最後の一文はわかる人だけに贈られた遊び心溢れるもの、なのですね。さてはこれのためにストックホルムが舞台なのか。
●「サンフランシスコの深い闇」
コメディタッチの人物造形なのに、隠されているものはなかなかに深く、そして苦い。同じキャラクターを使った作品が『光と影の誘惑』に収録された「二十四羽の目撃者」だということなので、早く『光と影の誘惑』を探し出さなければ(本棚のどこかにあるはず)。
●「ジャカルタの黎明」
これはちょっとした驚きでした。ミステリでこういう動機があっても説明がつけば問題ないと思うけれど、現実だったら取り合ってもらえない気がします。
●「カイロの残照」
伏線が若干わかりやすい気もするのですが、世界が反転するインパクトは大きい作品。人の気持ちなんて常にすれ違い続けるものなのかもしれない。
いずれも派手な作品ではないのですが、粒が揃った作品集となっています。貫井さんのうまさが光っていて、限られた紙幅の中に社会の深い闇だとか人間の暗い陰といったものを折り込み、鮮やかな切れ味で目の前の世界が反転あるいはグニャリと歪むような感覚を味わうことができます。
各編のタイトルにあるとおり、それぞれ別個の都市が舞台なのですが、現地の雰囲気がよく伝わってきます。それだけでなく、ほとんどの作品が日本を舞台にはできない、あるいは日本では扱いにくい設定になっているようです。貫井さん自身がすべて現地を訪れているというだけに、その労苦が活かされていると言うべきでしょうか。何せ短編5編に10年近くを要した作品集ですから。完成度が高く、安心して読むことができるオススメの短編集です。
収録作:「ミハスの落日」「ストックホルムの埋み火」「サンフランシスコの深い闇」「ジャカルタの黎明」「カイロの残照」
2007年3月12日読了
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