劇団《うさぎの眼》で役者としてようやく認められだした和希。そんな和希の前に劇団の主宰者である新條のファンだという女性・祐里があらわれる。和希に隠しごとを続ける祐里。やがて公演は楽日になるが、控え室で劇団の看板女優・圭織が殺害される。
ひさしぶりに読んだ貫井さんの本。貫井徳郎=鮎川哲也賞(最終候補)=本格、というイメージがあったのですが・・・期待は裏切られました。よい意味で。まだ読んでいない方は、ぜひ先入観を持たずに読まれることをオススメします。
以下ネタバレ。
プロローグで時間SFについて言及していることや祐里の言動から、彼女が何らかの形でタイムスリップしてきているということは容易に想像できます。このタイムスリップの謎が物語の中心であって、本来ミステリであるならば中心であるべき圭織殺害の謎を押しのけています。すなわち、本書はミステリというよりもミステリ風のSFであることを選択しているように思われます。
そして、それ以上に本作はボーイミーツガールの恋愛小説。設定は切なさを増大させるための小道具であるといえるでしょう。歴史の自己修復能力の前にタイムトラベラーは無力であり、細切れになったタイムスリップの複雑な設定は、和希と祐里が同じ時間を共有し続けることを拒みます。「またね」と祐里は別れ際に言うけれど、これから祐里が会うのは祐里のことを知らない過去の和希、これから和希が会うのは和希のことをネットのファイルでしか知らない過去の祐里・・・
読後だからこそ、表紙のジェットコースターが切ないです。
2004年12月12日読了
***以下2002年12月13日追記***
ネタバレを含みます。ご注意ください。
『さよならの代わりに』の表紙についてなんとなく考えてしまいました。
昨日読了した時点では、あのジェットコースターは和希と祐里にとって二人が共有した時間を過ごした思い出をあらわしているのだと単純に思っていました。
しかし、あのジェットコースターをよく見ると、カーブや単純な上昇、下降ではなく、1回転(ないしはそれ以上の回転)をしているようです。そこで考えたのは、この回転が祐里のタイムスリップのイメージに他ならないということ。もし単純な思い出だけならば、別にジェットコースターでなくても、競馬場でもどこでもよかったのでしょうね。
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