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評価:
近藤 史恵
東京創元社
¥ 1,575
(2007-10)
Amazonおすすめ度:
フレンチ美味しんぼ
おいしいお料理にほんわかミステリーをどうぞ♪
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ギャルソンの高築が勤めるフレンチ・レストラン「ビストロ・パ・マル」は、従業員4人と規模は小さいが、フレンチ好きの常連が多く、味は確かな素敵な店だ。三舟シェフは無口だけれど、客が持つ悩みやちょっとした事件を、厨房にいながら名推理でたちまちに解いてしまうのだった・・・
「ビストロ・パ・マル」を舞台とした7編による短編集。
●「タルト・タタンの夢」
結婚を間近に控えた常連の西田さんは、婚約者の手料理を食べて体調を崩した。同じものを食べているはずなのに・・・なるほど、さっそくフレンチをうまく絡めた話ですね。この方面には全く知識がないのでわかりませんでしたが、つかみにはよかったのでは。
●「ロニョン・ド・ヴォーの決意」
忌避すべき客、粕谷さん。彼は偏食が激しく、食べられるものの方が少ない。彼が連れてきた女性は、彼の妻は料理の下ごしらえが足りず、愛情に欠けていると言い放つ・・・夫婦の真髄を見せつけられたとでもいう感じ。そのとき、その一瞬が良ければそれでいいというものではないですから。
●「ガレット・デ・ロワの秘密」
志村シェフの奥さんはシャンソン歌手。パ・マルでのクリスマスコンサートのあと、彼女はガレット・デ・ロワを前にフランス時代の不思議な出来事を語りだした・・・フランスの文化と人間の感情をうまく組み合わせた作品。ご馳走さまと言いたくなる話だけれど、そこに行き着くまでの心理がおもしろいです。
●「オッソ・イラティをめぐる不和」
連日、一人でやって来るようになった脇田さん。実は奥さんに家を出て行かれたという。原因には心あたりがないと言うが・・・これは恐ろしい話。心あたりがある人はかなりいると思うのですが。
●「理不尽な酔っぱらい」
萩野屋の主人は高校時代に甲子園を目指していたが、合宿中に後輩が飲酒による暴力事件を起こして予選を辞退せざる得なくなったという。だが、合宿所には一滴も酒がなかった・・・ほかにあやしいところはないので、どこに仕掛けたかは明らかなのですが、思いもよらぬ仕掛けだったのでびっくり。不祥事の話のなのでちょっと重苦しく感じたのですが、オチがきれいに流してくれました。
●「ぬけがらのカスレ」
かつてフランスに滞在していたエッセイストが予約時にリクエストしたのは鵞鳥のカスレ。エッセイを読む限り、彼女にとっては嫌な思い出の残る料理のはずだが・・・「ガレット・デ・ロワの秘密」同様、きれいな組み合わせ。タイトルがうまいですね。
●「割り切れないチョコレート」
パ・マルのボンボン・オ・ショコラを非難した客は、最近評判のチョコレート専門店のショコラティエ。試しにその店のチョコレートを買ってみると、その詰め合わせはすべて素数だった・・・それが真相かどうか定かではないけれど、心温まる話。ただ、素数でなくても奇数でいいと思うのですが。
全体的に温かく、そしてやさしい作品が揃った作品集。日常の謎だから決して大きな謎ではなく、尺も短いのですが、粒ぞろいではずれがありません。どの作品にも別々のフレンチを絡めているのもポイント。
探偵役の三舟さんは無口ということだったけれど、なんだかそんな風に感じられなくて、むしろシーンによっては饒舌な印象も。たちどころに解決してしまうように見えるので、もっと逡巡するようなところがあってもよかった気がします。
近藤さんは長編を得意としているイメージが強かったのですが、短編集もなかなかいいですね。「錆びないスキレット」「憂さばらしのピストゥ 」「ブーランジュリーのメロンパン」「マドモワゼル・ブイヤベースにご用心」といったところも早く一冊にまとめてほしいところです。
収録作:「タルト・タタンの夢」「ロニョン・ド・ヴォーの決意」「ガレット・デ・ロワの秘密」「オッソ・イラティをめぐる不和」「理不尽な酔っぱらい」「ぬけがらのカスレ」「割り切れないチョコレート」
2007年11月17日読了
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